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きょうから解体工事【1957.7.17 読売】

心中事件の巻き添えで焼けた東京・谷中天王寺の五重塔の解体が始まる。地元では早くも「塔のそばにお化けが出る」との噂が絶えない。

きょうから解体工事
谷中の五重塔 “お化け”のうわさも

○…さる六日朝心中事件のまきぞえをくって焼失した谷中〔東京都台東区〕の天王寺五重塔はきょう十七日朝から解体が始められる。塔再建の見通しもつかず焼跡整理も費用の点ではかどらなかったがこのほど整理だけは文京区のM建設と二十七万円で話しあいがついた。同社では延べ百五十人の人夫で主としてノコギリなどで切り落しながら解体していくが、高さ三十五メートルという大きなものなので万一の事故を考えて、墓地の混雑するお盆の間は遠慮したもの。

○…比較的焼け残った一階付近の木材は“遺品”として塔の元の所有者天王寺にかえされ、同寺ではこれで毘沙門堂を建立する。また塔の跡は将来同墓地の納骨堂になる。

○…都谷中霊園管理事務所では焼け跡から銅板が三トンも出てとんだ遺産だと苦笑い。一方このヒカリものをネラう者が早速現れ谷中署に捕ったものもいる。ただ同事務所で頭を悩ませているのは使いものにならない焼けぼっくい。一応整理して塔のそばに置いてあるが最近はおフロ屋さんも燃料改革で引きとってくれず、またそのまま放っておいて浮浪者などのいたずらの材料にでもなっては困るというわけ。

○…また地元には早くも「塔のそばにオバケが出る」というウワサがしきり。墓地の中にある〔原文「中ある」〕お寺のお坊さんは「あんな死に方をすれば地獄だって受付けてくれないからきっと浮かばれないでしょう」と冷い意見。五重塔は焼けてとんだ夏の夜話まで生んでいる。

【写真は解体を待つ五重塔の残がい】



読売新聞 昭和32(1957)年7月17日・8面

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