『あゝ悪い日だ……』と口走つたが運の尽き【1925.4.7 東京朝日】
5年前に尼崎で女学生を殺した男が東京・中野署で捕まった。男は窃盗犯として逮捕されたが、その日が女学生が殺された日と同月同日。思わず「悪い日だ」と口にしたことから5年前の犯行も発覚した。
阪神沿線尼ケ崎〔尼崎〕在の女学生うたの殺し犯人嫌疑者として中野署で捕縛した桐野徳治(二六)については六日午前十時から此朝着京した尼ケ崎署の木村刑事部長、県警察部の小野部長をはじめ警視庁の出口警部、吉野署長等の手で更に厳重取調べるところあつたが、うたのを殺した
短刀や 其他の物的証拠と犯人の自白並びに犯行当時の模様等、全然符合し、こゝに全く真犯人に相違ないことが判明した、中野署では尚引続き今日までの桐野の行動並びに五年前<ぜん>の兇行動機等について取調を行つた上、一両日中に尼ケ崎へ護送することとなつた、桐野徳治が捕縛されたのはうたのを殺した大正九年三月二十四日から満五年目の同月同日で、彼は中野署に引致された際『あゝ悪い日だ』と
思はず 口走つたのが運の尽きとなつた、同人は去る二月二十五日、中野町〔現・東京都中野区〕三六六四、山脇新聞店へ拡張員と称し、たづねて行<ゆ>き、同家妻女と傍<かたはら>にゐた鮮人〔朝鮮人〕配達夫とを欺き、現金百九十円入りの手提金庫を掻払<かつぱら>つて逃走したので、中野署では犯人は新聞関係者との見込みの下<もと>に全市にわたつて捜査を続けた結果、府下蒲田〔大田区〕の某新聞店にゐた白井寿雄なるものゝ
挙動に つき調査した処、同人は偽名して去る一月末来、新宿遊郭金波楼の娼妓人本(二二)の許<もと>に通ひつめてゐる事をつきとめ、三月二十四日夜<よ>九時頃、登楼中を踏込み、遂に捕縛するに至つたものである、桐野が通つてゐた新宿金波楼の娼妓人本は語る。『白井さん(桐野の偽名)が始めて〔初めて〕
登楼し たのは一月末で、一週一、二回位づゝ来ましたが、いつも沈みがちでした、しかし金遣ひも荒いといふではなし、変つた様子もありませんでした、たゞ今思へば、口癖のやうに『海老茶〔女学生が殺されたときにはいていた袴の色〕が何よりいやだ、海老茶がたたるよ』とわけのわからぬ事を言ひながら、極端に海老茶色を嫌つてゐました、二十四日の晩捕まつた時は十四円程持つてゐました』
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