うたの殺しに絡はる不思議な因縁話【1925.4.10夕 東京日日】
尼崎の女学生殺しの犯人が東京・中野署に逮捕された日の夜、被害者の母親の夢枕に娘が現れて「東の方で憎い奴が捕まった」と告げた。当時、犯人逮捕はまだ尼崎署にも知らされていなかった。
既報、中野署に捕へられたうたの殺し犯人、桐野徳治(二六)はその後も連日、同署で取調べを進めてゐるが、何しろ警視庁関係だけの犯罪が廿一件もある事とて取調べに相当時日を要するが、逮捕した去月廿四日にとり敢ず拘留廿一日に処してあるから、来たる十三日の
◇…拘留期 明けまでには東京方面の調べを終り、十四、五日ごろ兵庫県警察部に護送する事に決定した、八日、中野署に達した尼ケ崎〔尼崎〕署及び県警察部の情報によると、殺されたうたの母すえ(四二)は惨事後いつまでも犯人があがらず、いつ娘のうらみが晴れべくもないので、爾来、警察を嫌ひ、呼び出しがあつても出頭しない位であつたが、その
◇…母親が 去月廿五日突然、尼ケ崎署に出頭、係官に面会の上、「前夜(即ち桐野が中野署に逮捕された廿四日)五年前<ぜん>に死んだうたのが夢枕に立ち、『東の方で私の悪<にく>い奴が捕まつた』と知らせがあつたから、どうぞ調べて下さい」と申し出でた、尼ケ崎署では当時まだ中野署から何等<なんら>の移牒〔通知〕もなかつたので、唯子を思ふ親心の迷ひとばかり宥<なだ>めて引とらせたが、母親はそれでもなほあきらめ切れず、更に兵庫県警察部にも出頭、
◇…同じ話 をくりかへしたさうで、中野署の係官もこの因縁話しに今更ながら奇異の感に打たれてゐる。