猫の祟り(二児を斬る)【1898.1.9 読売】
滋賀県栗太郡葉山村の豪商の婿が夕食中、飼い猫の無作法に腹を立て、刀で斬殺。その夜、同じ刀で突然、息子2人を殺害した。男は過去に精神を病んだものの、結婚後の家庭は円満だった。
滋賀県栗太郡葉山村〔現・栗東市〕大字六地蔵の豪商、柴林宗五郎の長女かしの養子、同姓孝次郎なる者、発狂の為<た>め自分の愛子二人<にん>を斬殺せし顛末を聞くに、養子孝次郎(二十八年)は同県蒲生郡北比都佐村<きたひつさむら>〔現・日野町〕大字清田、外池利右衛門の二男にして先年、柴林家の養子となり、隣家第十六番屋敷に分家し、呉服を商ひ居りしが、元来、精神病者にして是迄数度、発狂したることあるも、入家入来<いらい>〔以来〕、一家親睦に暮しつゝありしに、其後<そのご>、同人は甲賀郡水口<みなくち>町〔現・甲賀市〕米穀取引所に赴き、定期米に手を出し居りしに、旧臘〔前年の12月〕廿七日に至り一家団欒、夕飯を喫し居りし際、孝次郎の側<そば>へ飼猫一疋、出で来り、突然、飯櫃に足を掛けたるより、孝次郎は非常に憤怒し、猫を苧縄<おなは>にて縛置き、夕飯<ゆふめし>を済したるが、猫は悲鳴して止<やま>ず。孝次郎は益々怒<いか>り、遂に其猫を刀(旧臘五日、水口町に於て買求めしもの)にて斬殺<きりころ>し、下男下女に命じ、裏手の垣根へ埋めさせ、其夜<そのよ>十時頃に至りて家族一同、寝室に入<い>り、孝次郎も寝に就きたる処、何を思ひ出<いだ>しけん、突然、起き上り、灯火<あかり>を吹き消し、手燭に火を点じ、猫を斬りし刀を磨<と>がんとするの挙動あるを以て妻かしは起き上りて之を<これ>を制止せんとせしに、孝次郎は忽ち抜刀せんとしたるより、かしはキヤツと叫びて隣家なる本家へ逃げ行きたり。依て孝次郎は家内隈なく探して寝室に臥<ふ>し居りし長男孝一(四年)、次男悌二(二年)の二人を斬殺<ざんさつ>し、尚ほも荒れ廻り居る処を本家の下男等<ら>、駈け来り、多人数<たにんず>にて取押へ、其筋へ急報せしにぞ、警察署より警部、出張し、直<たゞち>に孝次郎を引致して目下、取調中なりと。