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西洋の狐狗狸さん【1903.5.17 読売】

近頃イギリスの霊魂信者の間で「プランシェット」という器具が流行している。この器具に指を置き、質問すると、器具がひとりでに動き、回答を文字に書くという。実際に汽船の遅延、説教で引用された聖書の箇所、手紙を出した相手の本名、舞踏会の同伴者、受験の成否などを的中させた事例が報告されている。

西洋狐狗狸<こつくり>さん
(霊界の使命を伝ふると称する器具)

拝啓此頃の英字新聞に別紙の如く「コツクリ」の記事有之<これあり>、日本の「コツクリ」と大同小異なるも外国の「コツクリ」は多少興味有之候事と存<ぞんじ>候間御報知致<いたし>候也

二月二十八日    在英国 井上 円了〔(1858-1919)〕

近頃プランシエツト〔planchette〕とて精霊的試験に従事せる精霊信者の熟知する小器具に付<つい>て公衆の注意を惹くに至れり此簡単なる設計は脚車及<および>鉛筆を有せる槲樹<かいじゆ>の心臓形滑板より成り斯道の言ふ所によれば予言力を有して現在過去未来の三界に関する質問に応じ恰も死せる魔術者とも謂ふべく実に秘密の性を帯ぶといふ

此使用法は別図に見るが如し

即ち一人<にん>二人<もしく>は三人が其指頭を軽く器械の上に置き、答案を要すべき件の疑問を考察すかくて数分<すふん>を経て器械は自動し始め鉛筆に由り紙上に歪形<ゆがみなり>の文字<もんじ>を漫書す此文字は秘怪なる使命を伝へ文字亦判読し得<う><し>かも懐疑派は之<これ>を嘲笑すと雖もプランシエツト信心者は此器具の記せる吉凶の指導告知の語に信を措けり<た>だ一二試験者の手が平面板に置かるゝ時に文字を書することに付ては毫も疑<うたがひ>あることなし

現に記者は魔術的能筆にて器具の動くを見受け斯くして書かれたる文字を解するを得たり<しか>し如何なる活動により書かるゝや又斯<かゝ>る予言に対し充分注意を払ふこと果して正当なりや否やは寧ろ世人の判断に任<ま>かすを可とす本文<ほんもん>は単にプランシエツトが事実を現示したる場合を明<あきら>かにせば足る

リバプール市エ、ダニエル氏の語に拠れば<かの>子息当年十七歳なるが<つね>にプランシエツトの顕著なる結果を得たり即ち先方の新消息がリバプールに電達する以前既にプランシエツトに由り某汽船が西印度島のセントトマスに於て不慮の原因の為<た>め数日間滞在せし事実を現示したり又此具に由り其児<こ>の為に或重要なる秘密会の通りの言葉を教え又数人の朋友間に交互計算を済<すま>各自正当なる配布を受くるを得せしめたりと尚言へらく、「我児は毎に之を以て唯一の忠告者とし彼にとりては平居座側の珍玩なり。「又嘗<かつ>て二婦人が此器具を持し疑問を要する諸客を延<ひ>くを見しかば<さいはひ>、当時余は過日スパージヨン〔Charles H. Spurgeon(1834-92)〕の説教を聴聞せし時其教文の句に感動したりしが其文句は記憶せしかど其出処を忘れたりしかば早速之をプランシエツトに尋問せり<やが>てプランシエツトは之に応へてコリント後書〔新約聖書の「コリントの信徒への手紙二」〕の節目<せつもく>を示せしかば之を験せしに全く之に符合し従て該婦人に教文の句を示<し>めす必要もなかりし云々尚同氏は一婦人と此具に手を置き婦人の夫たる少佐某氏を要して疑問を掛けしめしが少佐先づ問ふて謂<いへ>らく、「今朝<こんてう>は誰に書状を送りしか<よつ>てプランシエツトは直<たゞち>に書き始めたるが先刻より凝視し居たる少佐俄に謂らく『止<やめ>卿は既に余の問<とひ>に応えたり』されど試<こゝろみ>に其姓名を書<しよ>せしめたるが少佐又謂<い>『可なり、そは或は然<しか>らむ綽名<あだな>其に相違なし併し対手<あひて>が本名ウヰリヤムなりしや否やは余の知らざる所なりき』と因て試に軍人簿を探りしに果してウヰリヤムなりしといふ

此器具は初め白色<はくしよく>の一大片紙上に置かれ二人の者其指頭を図示せるが如くに置き其答解を要すべき疑問を考ふ数分間の後<のち>プランシエツトは運動し始め外見上任意に左右し<これ>に附着せる鉛筆もて紙上に不規則なる線を引くなり或場合に於ては字体明画なることあり。此活動こそ多数の信者は斯くして秘密なる使命を受理し著名なる予言の的確に応ずることを信ずるものなり

又或知人プランシエツトに疑問を掛<かけ>某氏は嘗て富みたるか器具は直に答へて決して<ネバー>然らずと書せしは図に於て見る所の如し

次に述ぶる所も亦其関係者の事実として証する所なり

或妙齢の二貴婦人問ひけらく『我々は来<きたる>廿五日舞踏に行くを得んか』とプランシエツト即ち応へて『然り』『さらば何人<なにびと>と伴ふや』応へて『チヤールステイー氏』と此チヤールステイ―氏は此妙齢婦人の兄弟なりしかば直に彼女はいふ『オーそは無根なりチヤールスは目下亜弗利加<あふりか>に在り』此問答に付き事実を験せしにプランチエツトの言ふ所正当にして此二婦人こそ之を知らざりしなり当時、チヤールスは亜弗利加より帰国中に在るものにして案の如く廿五日は正<ま>さしく舞踏会に此二婦人と相伴ひしといふ

或他の場合に疑を掛けて『S氏は試験を無事に通過し得べき乎<か>』と受験者の姉妹及朋友の問に応へて此の奇妙なる器具はいふ『然り』。「然らば順位は何番なる乎」。

応へていふ、「十七番なり」。斯くて不思議にもS氏は試験を通過し其順位も亦十七番なりき

以上プランシエツト不思議の例百を以て数ふロンドン市霊魂信者同盟会にては此器具を以て霊物と相通ずるの手段と為し之に注目せり

猶注目すべきは行使者の意向は件の器具上に向けしめ其目的に萃注<すゐちう>〔集中〕せしめざるを要す之を為すの方便として其手の器具上に置<おか>るゝ間は或書物を読みつゝあるなり

<かく>器具の活動が果して霊物の勢力に起因するか<は>た不可思議なる神経的の発作より生ずるかは記者の与り知る所にあらざるも要するに一二少数者之を信用し大方<たいはう>の者之を疑ふは固<もと>より其所なり

読売新聞 1903(明治36)年5月17日(日)4面

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