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夢知らせ【1893.7.23 読売】

東京・霊厳寺に住む夫婦の子が夜中に突然目覚め、静岡にいる祖母の死を告げた。翌朝、静岡から祖母の訃報が届き、臨終の時刻は子どもが目覚めたときと符合していた。

●夢知らせ  古来夢の説多し夢信ずべきか信ずべからざるか信ぜんとするも能<あた>はず信ぜざらんとするも亦能はざるものあるぞ不思議なる、夢知らせと云ふ者あり昔の赤本〔江戸時代中期に刊行された絵本〕には往々<まゝ>あれど自ら之<これ>に遇ひたる人誠に少なし〔/〕

<こゝ>に京橋区〔現・東京都中央区〕霊岸島〔霊巌島〕浜町の木崎与兵衛と云ふは静岡市安西町三丁目の加納某の姉を妻に娶り今年六才になる増太郎と云<いふ>子さへ儲けぬ初孫<うゐまご>の珍らしきに加納の老母は増太郎を非常に可愛がりて東京<とうけい>見物に上<のぼ>りし折々は傍<そば>も放さず連れ行<ある>きて好きと云ふほどの物を買ふて遣<や>るが常なりしが一昨日<おとつひ>の夜<よ>二時頃増太郎は昼遊びの疲れにスヤ/\と能<よ>く眠り居りしに俄然目を醒まして阿母<おツか>さん/\静岡のお婆さんが死んだよと連<つゞ>けさまに叫びてその儘また元の如く眠りに就きしが其声に目を醒ましたる与兵衛夫婦は嫌な事を聞くものから、「何か夢にでも魅<おそ>はれて寐<ね>ぼけしものなるべしと気にも止めず其夜を明かしたるに翌日静岡なる加納より電報来りぬ何事と披<ひら>き見れば昨夜二時老母死去せりとの訃音<ふいん>に夫婦顔見合せてさては昨夕<ゆふべ>のは増太郎の正夢にてありしかと驚くのみにて姑<しば>し涙は出<いで>ざりけり

読売新聞 1893(明治26)年7月23日(日)3面

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