人魚のミイラ【1937.9.5夕 読売】
佐渡島・河崎村の旧家の土蔵に昔から開けてはならぬと言われていた古い長持ちがある。主人が蓋を開けてみると、上半身が人間、下半身が魚の骨の形をした「人魚のミイラ」が出てきた。
【相川電話】 詩の島、伝説の島として幾多の怪奇譚をもつ“おけさの佐渡”に“人魚のミイラ”がこのほど、河崎村〔現・新潟県佐渡市〕、池甚吉(七〇)さん方土蔵の中から発見され、島の涼み台を賑はしてゐる、同家は村の旧家で、昔から「あけてはならぬ」制札を貼られた古長持があり、一家の人も触らぬ神に祟りなしと長い間、手も触れず、ほこりまみれになつたまゝ放つて置かれたところ、最近、甚吉さんが
『儂も今年は七十歳、古稀の齢を重ねたからには、仮令〔たとい〕祟りがあつて死んでも惜しくない命ぢや』
とばかり怖々ながら蓋をあけた、

あけて吃驚<びつくり>。出て来たものは紛れ方なき人魚?の骨、上半身は人間の骨の形をして居り、下半身は魚の骨。これに肉をつけたら、伝説物語りに出て来る“人魚”そつくりといふしろもの、高さ一尺二寸〔約36.4センチ〕、長さ七尺〔約212.1センチ〕位。早速、物識りや専門家に見せたが、何しろ品物はやけに古びて汚れ、黴まで生えてゐる代物であるため、いまだに判断がつかない、或人は支那<しな>海に棲んでゐた『儒恨』だといひ、或者は古いころ、香具師が使つた練細工ではないかといひ、当の本人、甚吉老も自分のものだが、生れ落ちて七十年初めて見る怪物にこれまた見当がつかぬといふ、まさか人魚が居たとは思はれないが、何としても奇怪なグロではある。【写真は長持の中から現れた怪物】
« 霊験“日光走り大黒”【1936.2.8夕 東京朝日】 | トップページ | 成仏せよ平将門【1941.3.13 読売】 »