霊験“日光走り大黒”【1936.2.8夕 東京朝日】
東京・本所に住む左官の徒弟が家出したが、主人の左官は平然としている。というのも、この家には日光から持ち帰った「走り大黒」の絵があり、その絵に願をかけると、盗難品も家出人も必ず所在が知れるからだという。
霊験“日光走り大黒”
『家出しても平気』
ノホホンのご主人
本所竪川町〔東京都墨田区〕一ノ一四ノ一、左官職上吉作之助方徒弟、褄善義雄(一六)は六日午後、家出した切り帰らないので、七日、両国署へ捜査願を出した、さて捜査願は出したものゝ、同家では『奴はきつと帰って来ますヨ』と至極のんびりしてゐるので、事情を聞くと、

わたしの家には家宝の“日光の走り大黒”の画像がありましてネ、この大黒様に一寸願をかけると、盗品は出て来る、家出人は帰つて来る、いや、霊験あらたかなものですよ
といふ、何でも四代前の祖母が日光霊廟参詣の帰り、俗に“大黒天の岩影”と称せられて信仰の的となつてゐる岩から墨絵をとり、持ち帰つてゐたもので、震災〔関東大震災〕では殆ど焼けたが、この“走り大黒”だけは焼けなかつたといはれる。
盗難や家出などの場合、この画像を逆さに掛け、大黒様の足に釘を打つと、盗難品は出て来る、家出人の所在は立ち所に判るといふ評判。
去る一月中旬、義雄が家出した時にも、作之助さんがこのおまじなひをやると、五時間後には同人が小石川の積善寮に収容、保護されてゐることが判つたさうで、作之助さんは自信たつぷりだ。【写真の絵は日光の走り大黒】
東京朝日新聞 1936(昭和11)年2月8日(土)夕刊