夢枕に立つて死場所を指ざす【1932.11.30 東京日日】
東京・目黒区に住む大工が嵐の翌朝、多摩川に出かけ、行方不明に。2週間後の夜、家族の夢に大工が現れ、自分は川に落ち、排水門の下の砂に埋もれているので、助けてくれと頼んだ。翌朝、夢で言われた場所を掘ると、大工の死体が見付かった。
夢枕に立つて
死場所を指ざす
釣に出て溺れた男漸く発見
◇目黒区大岡山八六、大工職、近藤米一郎(四七)は非常に釣が好きで、去る十四日の嵐の翌朝<よくてう>、家族のとめるのもきかず、多摩川に出かけたまゝ帰宅せず、家族から大森署へ捜査願ひを出す一方、妻とよ(三四)は乳呑み児を背負ひ、長男茂敏(一六)をはじめ、一家六人で毎日、夫の行方をたづねて多摩川べりをさ迷ひ、付近の者の同情を買つてゐた。
◇ところが、廿八日の夜<よ>、母子の夢に米一郎が現れ、
自分は川の中へ墜落、多摩川用水排水門の下の砂中に埋まつてゐるから、助けに来てくれ
とあつたので、廿九日午前十一時、大森署へ届出るとともに親子が夢枕の場所に行くと、浅瀬の砂の中から右手が波にゆられて親子を招いてゐたので、砂を掘つてみると、果して米一郎であつた。
◇母子は泣きながら死体を引取つたが、幼児がいたいけな手付で砂を掘る様は見る人の涙をさそつた。
東京日日新聞 1932(昭和7)年11月30日(水)
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