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怪談氷川の森【1914.5.21 都】

東京・荏原郡碑衾村の氷川神社にある樫の老木が毎晩深夜にうなるような音を出し、聞きに来る者が殺到している。数年前に木が鳴ったときは宮司の祈祷で止んだが、直後に宮司は大熱で寝込んでしまった。村会では伐採の意見が出たが、祟りを恐れ、賛成者はいない。

怪談氷川の森
(老木奇声を発す)

市外荏原郡<ゑばらごほり>碑衾村<ひふすまむら>字衾なる氷川神社〔東京都目黒区八雲2丁目にある氷川神社〕境内は昼さへ暗い森でこの森の中に三抱へもある赤樫の老木がある近頃この老木毎晩十二時頃になると幹の空洞の中で物の呻<うな>るやうな叫び声を起して遠く四方に谺<こだま>夜明けの三時頃までも続く事物凄くも亦恐ろしい有様だ〔/〕

全体此木は数年前<すねんぜん>にも声を出した当時宮司たりし新倉行春は一村の鎮守たる神社の境内に斯<かゝ>る不祥の怪事あるは誠に遺憾なりとある夜徹宵して怪音中止の祈祷をしたところ不思議や其翌晩から一時ハタと声は止んだが其晩から新倉宮司は俄に大熱が出てあらぬ事まで口走る大病となつた事がある〔/〕

今は同人の子息で行吉と云ふ人が神官を勤めて居るが怪音は又起つて此頃では益<ます/\>遠くへ響くので近所では氷川様の呻り樫と評判してゐるそして毎晩此の声を聴きに来るもの引も切らず今ではこの群集をあてにおでん稲荷鮨等の露店さへ出るやうになつたが中には空洞の中に白蛇が住んでゐるのだらうと噂するものもある〔/〕

同村では黙つて置かれぬので村会を開いて赤樫を伐り倒さうかと評議したが昔から此赤樫を伐らうなどゝ云ふものは必ず大難に遭つたとやらで誰一人賛成する者もないさうだ

都新聞 1914(大正3)年5月21日(木)

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